村松崇継

村松崇継[道標]

2019.10.16 [wed] Release

Release

New Album

「道標」

2019.10.16 [wed] Release

  • 1. そして、生きる
    作曲:村松崇継 編曲:村松崇継※WOWOW連続ドラマW「そして、生きる」音楽より
  • 2.Road Trip
    作詞:村松崇継 作曲:村松崇継 編曲:村松崇継
  • 3. 天命を待つ
    作曲:村松崇継 編曲:村松崇継※NHKドラマ10「昭和元禄落語心中」音楽より
  • 4. 一条の光
    作曲:村松崇継 編曲:村松崇継※映画『あの日のオルガン』音楽より
  • 5. We’ll be together
    作詞:村松崇継 作曲:村松崇継 編曲:村松崇継
  • 6. 落語心中
    作曲:村松崇継 編曲:村松崇継※NHKドラマ10「昭和元禄落語心中」音楽より
  • 7. 長安十二時辰
    作曲:村松崇継 編曲:村松崇継※優酷(Youku)配信ドラマ「長安十二時辰」音楽より

[ 道標 ]

強い日差しが照り付ける西海岸の海辺に立ち、水平線を見遣る。海は繋がっていて、この遥か向こうには僕の暮らす街があるのはたしかだが、眩い黄金色に輝く水面にどれだけ目を凝らしても、空と海との境を見定めることすらできない。思い切り深呼吸する。遠くへ来たのだ、という実感はそれだけで僕の心を自由にした……

強い日差しが照り付ける西海岸の海辺に立ち、水平線を見遣る。海は繋がっていて、この遥か向こうには僕の暮らす街があるのはたしかだが、眩い黄金色に輝く水面にどれだけ目を凝らしても、空と海との境を見定めることすらできない。思い切り深呼吸する。遠くへ来たのだ、という実感はそれだけで僕の心を自由にした。

乾いた風を頬に受けながら、車を東へと走らせる。目に映る建物や人影は次第にまばらになっていき、入れ替わるようにして脳裏に浮かんで来たのは、近年の激動の日々で出会った人々や作品の思い出だった。交わした言葉、眼差し、物語の世界に深く入り込んで聴こえて来た音、それをあるがまま音楽の形にできた時の喜び。あるいは、口にするのを躊躇い飲み込んだ言葉、交わることなくすれ違った視線、作品の主人公の人生に限界まで寄り添おうとするプロセスで味わった痛みや苦悩も同じだけ、いやそれ以上にありありと蘇ってくる。走馬灯のように浮かんでは消える断片的なイメージの連なりには、「なぜ今思い出すのだろう?」と不思議に思うような遥か昔の記憶も混在していた。今はもう逢えないあの人と眺めた夕空、些細な諍いをきっかけに疎遠になっている友人の懐かしい口癖、人生に訪れる終わりを想像することもなかった少年時代、夏の夜に観た打ち上げ花火。目の前のことに集中し、自身の全容量を明け渡しているような慌ただしい暮らしの中では掘り起こされることもない出来事や風景が、こうして心に広い余白が生まれた時、ふいに浮かび上がってくるのかもしれない。目を醒ましたまま夢を見るかのように、僕は一人車を走らせながら、絶え間なく現れては消えゆく記憶の残像を反芻していた。

陽が翳り目的地に差し掛かると、ただただ地平線が伸びるばかりの雄大な景色に息を呑んだ。ところどころヤシの木が道標のように聳える、聖なる砂漠の街。大地のエネルギーを直に感じ取ることができるこの場所は、僕にとってのオアシス。到着時間はほぼ予想通りで、ドライブは順調で快適だった。

不測の事態が起きたのは、その時だった。

車がエンストを起こし、ビクともしなくなってしまったのだ。原因は不明。修理を頼めそうな店は見当たらず、携帯電話も圏外。打つ手もなく途方に暮れていたが、来た道を振り返ると小さな建物が見える。本体に比して大き過ぎるぐらいの看板を掲げているところを見ると、宿かカフェか、いずれにしても誰か人がいれば力を借りられるかもしれない。走行中はなぜか見落としていたようだが、考えてみればずっと休憩もせず運転し続けて随分疲れていたし、空腹であることにも気付いたので、僕は歩いてそこを目指した。

その建物は古びたカフェで、扉を開けると年老いたマスターが一人、僕を見ると静かに微笑み掛けて来た。先客の気配はなく、音楽も流れていない店内にコーヒーマシーンの音だけが響いている。決して新しくはないが清潔で手入れの行き届いた空間は、不安を抱えていた僕の心を瞬時にして鎮めた。窓際のテーブル席に腰掛け、まずは空腹を満たすためにメニューからコーヒーと名物らしいハンバーガーを注文し、年季の入った琥珀色の壁に刻まれた年輪を見るともなく見ながら待った。すると扉が開き、年配の女性が入って来てマスターと挨拶を交わすと、迷いのない足取りでカウンター席へと向かった。調理をしている店主と対話、というよりは一方的な報告といった口調で、天気の話に始まり、遠くに住む孫娘が遊びに来るのが待ちきれない、というプライベートな話題まで一気にまくしたてる、その様子から常連であることが伺えた。マスターは時折相槌を打ちながら、大袈裟なリアクションもせず先を急かすでもなく、終始穏やかな笑みを浮かべて話を聴いていた。その間も決して手は止めず、僕のテーブルにはほどなくして料理が運ばれてきた。コーヒーは香りが良く、ハンバーガーも驚くほど旨い。添えられたサラダの野菜も新鮮だ。平らげて一息つくと、やはり木製の本棚が目に留まり、背を見ると小説から伝記、詩集、絵本などジャンルはバラバラだったが、どれも大切に扱われていることが一目で分かった。本だけでなく、照明器具やカーテン、クロスなど店内に備えられているあらゆるものの醸し出すトーンには統一感があった。華美ではないが素朴で魅力的なその落ち着いた空気感の源は、おそらくマスターの放つ気配と佇まいにあるのだ、と突き止めるのにそう時間は掛からなかった。この人が手に取って選び、大事に守ってきたものしかここには存在しない。通りすがりに立ち寄っただけなのに、まるで昔から慣れ親しんだ場所に迎え入れられたような居心地の良さを、僕は時間の感覚を忘れて味わっていた。

気付けば客はまた僕一人になっていて、コーヒーのお代わりを注ぎに来てくれたマスターは、「どこから来たんだい?」と質問し、それを皮切りに言葉を交わした。聞けば、僕の年齢を超える長い年月を彼はこの店で過ごし、訪れる人々をもてなしてきたという。「街から出たいと思ったことはないんですか?」と尋ねると、一瞬遥か彼方を見るような目をした後、「ここに来る人をもてなすことが私の生き甲斐なんだ」と答える。「遠くへ行かなくても、いろんな人と出会えるものだよ」と付け加えて微笑む目尻に現れた深い皺は、壁の年輪によく似ていた。

店の隅にピアノがあることに気付いた僕は、許可を得てその前に座った。自分が音楽家だとは伝えたが、マスターは、1曲弾いてみてくれ、などと不躾に求めることもなく、カウンターの向こう側に戻り、こちらを見て思慮深く微笑んでいた。僕は、今ここで感じているすべてを音に映し出そうと指を動かし、全身で音を奏でた。ピアノはところどころ塗装が剥がれ調律も適切でなかったが、妨げになるどころか僕はそれを味わい楽しみながら夢中で鍵盤に指を走らせた。これまでに経験した出会いと別れ、その時々の笑顔と流した涙、すべてが僕の奥底に残っている。儚く消えていく瞬間も、音楽の中に封じ込めれば、生き生きとしたまま残すことができる。生きて感じること全てが僕をつくり、音楽になる。一人で歩んで来た道は、出会いによって微かであれ進路を変え、その先に広がる景色も変えた。やがて別れたとしても、その事実は決して失われることがない。そんなことを感じながら無我夢中でピアノを弾き終え、気付くと窓の外には夕闇が訪れようとしていた。どれぐらいの時間奏で続けていたのか分からない。たしかなのは、一音一音に僕自身が新鮮な驚きを感じ、幸せに包まれていたこと。額の汗を拭う僕にマスターは優しい眼差しを向け、そっと拍手してくれた。

店を出ると、夕陽は燃えるような深紅の光を強く放ち、ほどなくして地平線の下へ姿を消した。車を停めた場所へと辿り着き、振り返るとカフェの灯りは消えていて、輪郭は夜闇に溶け込んで朧げに見えた。そこでようやく僕は、あの店へ向かった目的を忘れ去っていたことに気付く。足元に白く光るものを見つけ手を伸ばすと、それは小さな貝殻だった。太古の昔この砂漠は海底の地だった、という誰かに聞いた話をふと思い出す。ドアを開けて乗り込み、キーをひねると何事もなかったかのようにエンジンが掛かったことには、さほど驚かなかった。空を照らし始めた青白い月を遠方に見つめながら、ゆっくりとアクセルを踏む。心地良い音がして全身に振動が伝わる。僕の旅は、まだ始まったばかりだ。

大前多恵

Music Video

News

2019.9.27

収録曲「そして、生きる」と「Road Trip」、本日先行配信スタート!

10月16日(水)に発売となるAL『道標』より、「そして、生きる」と「Road Trip 」の先行配信がスタートしました!

>>「そして、生きる」ダウンロードはこちら
https://amuse-inc.lnk.to/Soshiteikiru20190927

>>「Road Trip」ダウンロードはこちら
https://amuse-inc.lnk.to/RoadTrip20190927

本日9月27日(金)より劇場版「そして、生きる」が公開となりました。
こちらも併せてチェックしてみてください!

Live Information

2019.9.27

村松崇継LIVE Vol.4 ~道標~

【東京】イイノホール
2019年10月5日(土)Open 16:30 / Start 17:00
【大阪】ザ・フェニックスホール
2019年10月12日(土)Open 16:30 / Start 17:00

■チケット
全席指定:¥5,400(税込)
※未就学児童入場不可
※学割:公演当日会場にて 学生証 or 証明書 をご提示頂いた方には¥1,000キャッシュバックいたします。

▼チケット一般発売日:8月3日(土)10:00~
>>チケットぴあ
http://w.pia.jp/t/muramatsu-t
>>ローソンチケット
https://l-tike.com/muramatsu-t/
>>イープラス
https://eplus.jp/muramatsu/
>>LINEチケット
https://ticket.line.me/sp/muramatsu-t
>>CNプレイガイド
http://www.cnplayguide.com/muramatsu-t/

■サポートミュージシャン
Violin 真部裕
http://www.yumanabe.com/
Percussion はたけやま裕
http://www.you-hatakeyama.com/

ゲスト:
Cello 宮田大
https://daimiyata.com/

■公演に関するお問い合わせ
【東京公演】キョードー横浜 ℡045-671-9911(月~土 11:00 - 18:00)
【大阪公演】キョードーインフォメーション ℡0570-200-888(月~日 10:00 - 18:00)

Discography